インデックス まえがき あらすじ


(テレビシリーズ第8話から)

《――アルクス・プリーマの展望窓。
 嶺国の船から打ち上げられた信号弾のようなものを見るアーエル、フロエ、ユン、アングラス。
アーエル「ちょっと会議の様子、見てくる」
フロエ「あたしも!」
 走り去るアーエルとフロエ。》

 外の様子を確かめ、身構えているユン。そこへ背後から手が伸びてくる。
 左手がユンの腰に回り、右手は頬から顎へと伝う。
 アングラスが背後からユンを抱きしめている。
ユン「アングラス……何を?」
 こんな非常時に、という思いと、恥じらいが混ざり合った表情のユン。
 目を閉じてユンの首筋に顔を寄せていたアングラス。ぱっと目を開くが、表情がない。
ユン「……はっ!」
 アングラスの右手の中で何かが光る。ユンののど元に身繕い用のカミソリが突きつけられている。
 冷静に言うアングラス。
アングラス「私についてきてください」
 すぐそばで物音。衛兵が回廊から現れる。驚いてすぐに胸のホルスターから拳銃を抜く衛兵。
衛兵「何をしている!」
 ユンの背後に隠れるアングラス。カミソリをちらつかせる。
アングラス「それをこちらへお渡しなさい」
ユン「やめろ、言う事を聞くな!」
 必死に叫ぶユン。
 しかし衛兵はゆっくりと銃口を下に向け、右手を挙げて左手で銃を足下へ降ろす。
ユン「よせ!」
衛兵「――私らは」
 ぐっと口をつぐむユン。
 申し訳なさそうな表情をしている衛兵。
衛兵「巫女様を傷つけるような真似は、絶対にできないんです」
 悔しそうに歯を食いしばるユン。銃を床に置く音がする。

《――会議場近く、グラギエフに詰め寄るアーエル。
アーエル「さっきの花火、何かの合図だよ」
グラギエフ「それより、巫女はどちらに?」
 キサラとマリーンが駆け込んでくる。》

キサラ「アーエル様、シヴュラ・ユンが!」
アーエル「!」
 等間隔に入り口が作られている長い回廊。ユンを引きずるようにして回廊を進むアングラス。
 ユンの顎には銃が突きつけられている。扱い慣れていないためか銃の持ち方が下手。
 激しく食い下がるユン。
ユン「どうしてだ。先程の言葉は嘘だったのか!」
 険しい顔で何も答えないアングラス。そのままユンを連れて進んでいく。遠くから兵士の声。
兵士A「いたぞ!」
兵士B「こっちだ」
 ばらばらと足音。回廊の一方に兵士達が現れる。両手に小銃を携えている。
 兵士達の方へ目配せするアングラス。反対側からも乱雑な足音がして、そちらを振り返るアングラス。
ワポーリフ「シヴュラ・ユン!」
 数名の整備員を連れたワポーリフが、開いている扉から回廊へ出てくる。
アングラス「……!」
 もう一度兵士達の方を見た後、そばの入り口に飛び込むアングラス。
兵士A「待て!」
 入り口へ殺到する兵士達、整備員達。しかしすぐに何発かの銃声がして、アングラスの発砲した弾丸が兵士達のいる床に激しく当たる。思わず後ずさる兵士達。
 緊張の面持ちで兵士に駆け寄るワポーリフ。苦々しい顔で言う。
ワポーリフ「巫女様が人質になっている……」
 ワポーリフの言いたい事を理解し、うなずく兵士A。
兵士A「この先は整備区画だな。まず出口を固めよう。それから追い込む」
 他の兵士に指示を出す兵士A。
兵士A「おまえ達、もう一つの出口をふさげ」
兵士達「はっ」
 走り出す数人の兵士達。

《――回廊を走ってくるアーエル、フロエ。すでにワポーリフの所に来ているネヴィリルとパライエッタのそばへ駆け寄る。
アーエル「ネヴィリル、これ……」
パライエッタ「見ての通り、これが奴らのやり方だ。会議に紛れて潜入するつもりだったんだ」》

フロエ「この艦でも乗っ取る気?」
 アングラスへ呼びかけるアーエル。
アーエル「なあ、アングラス。戻ってこい!」
 ドーム型の天井に覆われ、少ない明かりで照らされている整備区画内。養生中のシムーンが数機置かれている中を進むアングラスとユン。警告のサイレンが鳴り響いている。
 天井に目をやり、サイレンの音を確かめているユン。アングラスの方へ目をやる。
ユン「どうした、もう退路がないぞ」
 ユンの背後でふと目を背けるアングラス。
アングラス「退路など……」
ユン「……?」
 整備区画の隅、床が金網になっている場所でユンを突き放すアングラス。激しい足音。ユンはすぐにアングラスの方を振り向くが、すでに拳銃の銃口が彼女の胸に向けられている。
ユン「く……っ!」
 後ずさって、ちらりと背後を振り返るユン。
 かかとの先すぐの所で金網がとぎれていて、後がない。半地下になっているピットの中にはコール・カプトのシムーンが置かれているだけで、下の床は暗くて見えない。
 アングラスへ向き直るユン。
ユン「……あなたはこんな事をするためにここまで来たのか? あなた達の求める和平とはいったい――」
アングラス「あなた方の国では、こう言うのでしょう」
 ユンの言葉を遮るアングラス。抑揚のない声。拳銃を両手でひときわ高く持ち直すアングラス。拳銃の冷たい金属音。
アングラス「『私のパルになってください』……」
 声はわずかに熱を帯びている。しかし言い終わってから、寂しげな表情になるアングラス。

《――会議場、拳銃を構えて後ずさる嶺国の巫女達。
 驚きの表情のハルコンフと宮国代表。
 嶺国代表を背に決意のまなざしの嶺国の巫女達。しかし一瞬、アングラスと同じ表情になる。》

 我が耳を疑いたくなるユン。
ユン「そんな……。自分で言っている事がわかっているのか?」
アングラス「お願いします」
 揺るぎない声のアングラス。ユンの背中と、拳銃を構えるアングラス。
ユン「第一、あなたと俺では、国も違えばあがめる神も――」
アングラス「お願いします」
 かたくなな声のアングラス。対峙するアングラスとユン。大きく首を振り不安な声を上げるユン。
ユン「……いいや……あなたと俺で、うまくいくわけが――」
 いつしかすがるような口調のアングラス。
アングラス「お願いします」
ユン「だが」
アングラス「お願い!」
 泣き出しそうな叫びとともに、拳銃を捨てユンの胸に飛び込むアングラス。
 ユンが身構える間もなく、アングラスがユンの唇を奪う。
ユン「!」
 目を見開いているユン。その首にすがりつき、目をぎゅっと閉じているアングラス。これまでの「儀式」では覚えたことのない感触に、ユンの頬がみるみる染まる。と、ユンの背後に光。
 輝きを放ち始めるシムーン球。球の中で光のパターンがめまぐるしく動き出す。
 やがて、二人の唇がゆっくりと離れる。離れた直後、息を吸ったアングラスが甘くこもった声で言う。
アングラス「私を許して」
 頬を染め呆然としていたユンが、彼女の言葉でふと我に返る。一瞬遅れてユンの腹部に激痛が走る。
 ユンのみぞおちに当て身を食らわせているアングラス。背後の空間へ弾き飛ばされるユン。
 開いていたシムーンのサジッタ席にたたき落とされるユン。背中と頭を激しく打つ。
ユン「うっ!」
 足場の上で巫女服の裾を両手でつまみ、うやうやしく腰を落とすアングラス。右足を後ろへ一歩引き、ジャンプ。
 ふわりと空中を飛んで、アウリーガ席に着地するアングラス。途中で帽子が飛ぶ。
 痛みをこらえながら、訴えかけるユン。
ユン「あなたは……何を」
 席に着いて巫女服の裾を押し込むアングラス。操縦桿に正面から向き合う。最初ためらっているが、やがてゆっくりと、確かな手つきで操縦桿をつかむ。
 反応するシムーン球。シムーンの機体ががくんと揺れ、固定していた何本ものワイヤーを断ち切ってシムーンが上昇し始める。
 上昇の勢いと揺れのせいでアウリーガ席、サジッタ席の風防が音を立てて閉じる。速度を増し、天井に幾つか取り付けられている明かり取りの窓を突き破って外へ飛び出すシムーン。
 破壊音を聞きつけて整備区画に入ってくる兵士達。中に踏み込んだネヴィリル達は窓の上の空を呆然と見上げる。
ネヴィリル「飛んだ……?」
 ふらつきながら急降下し、海面の直前で反転した後、今度はまっすぐに上空を目指すシムーン。
 会議場、激しい振動の後、窓のすぐそばをシムーンが猛烈な勢いで飛び立つのが見える。

《――目配せし、うなずく嶺国の巫女達。振り返り自分達の国の代表に銃を突きつける。
ハルコンフ「何を?!」
 銃声。倒れる巫女達。
 信じられない光景を目の当たりにするハルコンフ。
ハルコンフ「なぜ……」
 血を流し床に倒れている嶺国の巫女達と嶺国代表達。》

 シムーンのサジッタ席。まだ起き上がれないユン。痛みをこらえている。アングラスの声が聞こえてくる。
アングラス「最近になって、私達の国に、『シミレ』と呼ばれる乗機がもたらされました」
 アングラスの横顔。
アングラス「私達はそれを使って、飛ぶ術を学びました。ですが今日、あなた方の船に乗って初めて、シムーンには『パル』が必要な事を知ったのです」
ユン「?」
 なぜそんな事を言い出すのかわからないユン。
アングラス「……あなたを巻き込んでしまって、とても申し訳なく思っています。でもどうか、……どうかずっと、私のパルでいてください」
 途中から懇願するような口調になるアングラス。少しだけ体を起こすユン。
ユン「アングラス……」
 ユンの方へ顔を向けて話していたが、正面へ向き直るアングラス。緊張した話し方になる。
アングラス「これから『平らかなる翠』の祈りをアニムスに捧げます」
 アングラスの言う言葉がわからないユン。
ユン「何だって……?」
 片手を操縦桿から離すアングラス。白いフードをはずし、さらにマントを脱ぐ。
 アングラスの肩と二の腕、胸元の肌があらわになる。左右の肩口と、喉の下に、二色の線が複雑に入り混じった丸い図形が描かれている。
 ユンの位置からも、肩に描かれた図形が見える。最初は何なのかわからなかったが、突然はっとするユン。
ユン「その形は……」
 アングラスの胸元の図形が大きく見える。
ユン「翠玉の……リ・マージョン……?!」
 上昇していたシムーンが下降に転じる。風を切る鋭い音。
 アウリーガ席、話し始めるアングラス。
アングラス「私達の国では、巫女になると一人に一つずつ、主なる祈りが授けられます。私には、これ」
 自分の胸にある図形を指先でなでるアングラス。
アングラス「これまで巫女は、自分に与えられた祈りを胸に抱いたまま、豊穣を念じ、つとめをまっとうしてきました」
 アングラス達のいる上空から海上を見下ろす光景。嶺国の戦艦とアルクス・プリーマ。暗い調子のアングラスの声。
アングラス「ですが……戦争と、シムーンです。これらのために、私達のつとめの意味は変わってしまいました」
 アルクス・プリーマ甲板。駆け出してくるアーエル達。いったん足を止めて、シムーンが飛び去った上空を確認する。
フロエ「あたし達も行こっ!」
 自分のシムーンの方へ走り出そうとするフロエ。マミーナの鋭い声がフロエを立ち止まらせる。
マミーナ「行ってどうする気?」
 深刻な顔つきのマミーナ。
マミーナ「言う事聞かなかったら撃ち落とすって? ユンもろとも」
パライエッタ「――シムーンがシムーンを討つなど……」
 うつむき加減で悔しそうな表情のパライエッタ。
パライエッタ「神にもとる大罪だ」
 パライエッタに、というより自分自身にもどかしさを感じるフロエの声。
フロエ「じゃあ……じゃあどうしろって言うのよ!」
モリナス「来るわ!」
 振り返るパライエッタ達。空を見上げて緊張の面持ちのモリナス。
 まっすぐに降りてくるシムーン。途中で急にコースを変え、軌跡を描き始める。
 駆けつけるドミヌーラとリモネ。他のシヴュラ達とともに空を見上げてはっとするドミヌーラ。
ドミヌーラ「……?!」
 シムーンのサジッタ席、痛みをこらえ肩を押さえながら何とか起き上がるユン。
ユン「あなたがやろうとしているのは……」
 ゆっくりと首を振るアングラス。前を向き、張りのある声ではっきりと告げる。
アングラス「――私はここに、戦いをやめるために来ました」
 次いで悟ったように優しく微笑むアングラス。声は少しうわずっている。
アングラス「あなたも同じように、思ってくださるでしょう?」
 肩を押さえていた手を離し、座席の背もたれに体を預けて、目を閉じるユン。深く吸い込んだ息を吐く。
ユン「一つだけ、教えてくれ」
 アングラスの横顔。
ユン「なぜ、俺を……?」
 ぴくっと体を震わせるアングラス。前を向いたままだが、切ない顔になる。
アングラス「それは――」
 頬が紅潮するアングラス。
 アングラスの記憶、出会いの場面。にこやかに笑って近づいてくるユン。親しく話しかけるユン。
 同じように、記憶の中の場面。アルクス・プリーマ内を案内するユン。振り返り、首をかしげてアングラスに微笑みかける。
アングラス「それは、あなたが――」
 現実のアウリーガ席、顎を引き口を結ぶアングラス。操縦桿を引き、リ・マージョンの体勢へ。
 アルクス・プリーマ内の会議場。シムーンの描き始める軌跡が窓の外に見えている。倒れていた嶺国の巫女が最後の力を振り絞って顔を起こし、シムーンの軌跡を見る。アングラスの声がかぶる。
アングラス「――あなたが……」
 弱々しい声で言う嶺国の巫女。
嶺国の巫女「……美しい」
 笑みを浮かべる巫女。が、急に力が抜ける。
 窓の外、輝きを増す軌跡。巫女が床に倒れる音がする。
 アルクス・プリーマの甲板。右舷上空で、シムーンが巨大な球形の軌跡を描いている。
 立ちすくむシヴュラ達。
 目を見開いているロードレアモン。
ロードレアモン「あの軌跡は――!」
 リ・マージョンの名前を言おうとするロードレアモン。しかしある事に気づき、急いで自分の口を両手でふさぐ。そばにいるネヴィリルの様子をおそるおそる確かめるロードレアモン。
 ネヴィリルは黙って空を見上げているが、顎から下しか見えないため表情はわからない。
 戦慄するアーエル。声が震えている。
アーエル「……どうして、あたし……?」
 自分がなぜ驚いているのか自分で理由がわからないアーエル。
 アーエルとは少し離れた場所で、不快な表情を浮かべるアルティ、そわそわしているカイム。
アルティ「どっちにしても、こんな近くでやられたらひとたまりもないわ」
カイム「どうしよう、パラ様!」
 歯を食いしばるパライエッタ。
パライエッタ「く……!」
 パライエッタの隣で呆然と立ち尽くしているネヴィリル。風に揺られる髪が頬をなでている。独り言のように口走る。
ネヴィリル「あれが」
 ネヴィリルの横顔。空虚な、だが何か違和感を覚えている表情。
ネヴィリル「あれが、私達のした事、なの?」
 上空、球形の軌跡の中心が輝き始める。
パライエッタ「左舷へ。できるだけ離れろ!」
 手で合図するパライエッタ。甲板員やカイム達は走り出す。
パライエッタ「ネヴィリル! 来るんだ!」
 ネヴィリルの腕を強引に引くパライエッタ。はっとして我に返るネヴィリル。
 甲板左舷寄り。走ってきたドミヌーラ。すでにカイムとフロエがいるが、二人は必死になってアーエルの肩を押さえている。
 走り出そうともがいているが、できないアーエル。空に描かれる軌跡に向かって叫んでいる。
アーエル「戻ってこい、そっちは違う!」
 仁王立ちになって軌跡を見据えるドミヌーラ。そばにはロードレアモンがいて、さらにその陰に隠れたリモネが彼女の服のすそをつかんでいる。
 特に感情を込めずにはっきり言うドミヌーラ。
ドミヌーラ「……望むべくもない」
 リモネを不安そうに見ているロードレアモン。まっすぐに軌跡を見上げているリモネ。つぶやくように言う。
リモネ「ダメ。軸が完全に傾いてる」
 上空、軌跡の中心の光が明滅を始める。ゆがんだ空間に向かって強風が吹き始め、アルクス・プリーマさえ引き寄せられる。リモネの、小さいがはっきりした、そしてどこか寂しそうな声。
リモネ「失敗」
 シムーンのサジッタ席。はっとするユン。
 リ・マージョンの軌跡に引かれて、自分の周囲で激しく回転している世界。が、突然視界が暗くなる。成層圏にまで到達したかのように、頭上には澄んだ深い藍色、眼下には空色のグラデーションが瞬時に広がる。周囲の音が急に静まる。
ユン「……っ、は……っ」
 浅くしか呼吸できないユン。目には恐怖の色。
 ユンの背後からの視点。シムーンのはるか前方に星のような光の点が見えたかと思うと、ユンの目の前に何本もの白い、人間の腕が突如伸びてくる。
 サジッタ席とユンの横顔。ユンの頬に触れそうなほど近くにある何本もの腕。恐怖でうわずっているユンの声が言う。
ユン「……皆……」
 その腕は、果たしてユンを迎え入れようとしているのか、それとも押し戻そうとしているのか……。
 アウリーガ席とアングラスの横顔。周囲は同じような深い色に包まれているが、腕などは見えない。
 アングラスの横顔。険しい形相で歯を食いしばる。
アングラス「迷ってなどいられない。迷ってなど……」
 表情がいっそう厳しくなって、体ごと前方へ傾く。叫び。
アングラス「――アー・エール!」
アーエル「――?!」
 愕然として振り返るアーエル。
 上空、軌跡の中心から幾筋もの光が周囲へ飛び散る。爆発。アルクス・プリーマの右舷の一部が巻き込まれる。
 弾き飛ばされるシムーン。制御を失って回転しながらアルクス・プリーマに急接近。
 四方へ走り去る整備員達。甲板にシムーンがたたきつけられる。破壊音。
 火花を散らしながら甲板上を滑ってくるシムーン。サジッタ席の風防が飛ばされ、中から人が放り出される。
 甲板の中央で止まったとたん、火を噴いて燃え上がるシムーン。
 炎を背に、大きな身振りで指示を出しているワポーリフ。声は聞こえない。行き交う整備員達。
 放り出された人物へ駆け寄るシヴュラ達。足音は聞こえない。
 服は切り裂かれ、傷は浅いものの体のあちこちに血をにじませているユン。そばにロードレアモンが座り込み、自分の膝の上にユンの頭を乗せておそるおそる肩に手を添える。マミーナやアルティ達もそばにやって来る。
 痛みと、悲しみから肩を震わせるユン。苦しそうにつぶやく。
ユン「……どうして」
 呼吸が満足にできないのか、やっと息を吸い込むユン。泣き出しそうな声を絞り出す。
ユン「どうして……俺のパルは、皆先に行ってしまうんだ……」
 ユンの言っている事がつかみきれないロードレアモン。その後ろに立って、さすがに厳しい顔のマミーナ。
 ユンのそばに立つネヴィリル。ユンに確認する声のトーンは暗い。
ネヴィリル「一緒に乗っていたのは、アングラスだったの?」
 ネヴィリルの背後、ふらふらと歩いてくるアーエル。呆然としたアーエルの様子に驚くモリナス。
モリナス「ちょっと……大丈夫?」
 ロードレアモンの膝の上、かすかにうなずくユン。痛そうに顔を上げ、ネヴィリルと、その背後へ目を向ける。
ユン「彼女は最後に、『アーエル』と……」
アーエル「!」
 再び衝撃を受けるアーエル。立ち尽くしたまま涙だけがぽろぽろとこぼれる。
 やがて足の力が抜け、その場に子供のように座り込むアーエル。見開いた目から溢れる涙は止まらない。
 肩越しにアーエルに顔を向け、見下ろしているネヴィリル。
ネヴィリル「あなたには……聞こえていたのね」

《――震えおののく声で言うアーエル。
アーエル「なんで……なんであたしの名前を……?」》

(テレビシリーズ第8話へ続く)

-- 了 --


あとがき 感想をお寄せください


(c) 創通映像・スタジオディーン/シムーン製作委員会
2006.11.23 Written by ギンガム from 百合佳話 [ゆり/かわ]