アサルトリリィ BOUQUET 第1話
会いたかった夢結にすぐに会えた、入学初日に友達ができた、寮に入るのは遅れたけど学院生活は皆と一緒に始められた、、、。梨璃にとっては素敵な出来事が多かった記念すべき学院初日だったのかもしれません。けれど、これから苦しい事もたくさん経験していくのでしょう。何しろ彼女は、彼女達は、リリィなのですから。それでも、お互いの絆を深め合い、支え合っていけると良いですね。
テレビ放送が始まったアニメ「アサルトリリィ BOUQUET」を見てみました。第1話のサブタイトルは「スイレン」です。
(放送で流れたテロップには、このタイトルの他、「WATER LILY」、「Purely of heart」、「まだ何者でもないわたし」とも書かれています。WATER LILYはスイレン(睡蓮)の英語での呼び名で、その花言葉の「清らかな心」は英語では「Purity of heart」となるようです。
ちなみに、スイレンというと、本作のオープニング主題歌を歌う、「BanG Dream!」発のユニット、「RAISE A SUILEN」を思い出しますね。その辺りともかけてあるのかもです。)
名門、百合ヶ丘女学院高等部に、補欠ながらも合格した一柳梨璃(ひとつやなぎりり)。彼女は故郷の甲州から始発電車に乗って、鎌倉府にある学院へとやって来ます。同学年の楓・J・ヌーベル(かえで・じょあん・ぬーべる)や二川二水(ふたがわふみ)と知り合いになり、憧れのリリィである先輩の白井夢結(しらいゆゆ)の姿を見つける事もできました。そこへ、学院で保管していた研究用のヒュージが逃走したとの連絡が入ります。
冒頭の場面で、梨璃のナレーションと風景描写から、物語の世界観が描かれていきます。大月の方からやって来たらしい梨璃は、藤沢で電車を乗り換え、江ノ電(作中では「江之電」となっているようです)で鎌倉方面を目指しています。駅を出て小田急のビルの方へ向かい、かまぼこ形の屋根の駅舎から1両編成の電車に。鵠沼や江ノ島の駅を過ぎ、鎌倉高校前辺りを通る頃には車窓の向こうに広い海が広がります。
素敵な眺めですけれど、違和感が一つだけ。島の向こう側、相模湾のまっただ中に、すり鉢状の白い雲のようなものが、高く大きくそびえ立っています。
これがヒュージネスト、HUGE(ヒュージ)と呼ばれる謎の存在が出現してくる場所らしいです。ヒュージの侵攻によって、人類は危機に陥っています。
苦境に立たされた人類の最後の希望が、「リリィ」なのですね。ヒュージに対抗できる武器、CHARM(チャーム)を扱えるのは十代の女性のみで、彼女達はリリィとして、学校に通いながらヒュージを迎え撃つ使命を与えられています。
電車は極楽寺のトンネルを抜け、御霊神社の前を通り過ぎていきます(神社の前にあじさいの花が咲いているように見えます。季節感がなさそう、とも思えるのですが、実はヒュージの出現の影響で植物の生態が変わってしまった、とか?)。ここから先、長谷や和田塚を通って鎌倉までは内陸の線路を、、、と思ったら、また視界が開けて海が見えてきます。これは?
ここで鎌倉の全体が描かれていきます。海辺の幾つかの地域は、ヒュージの攻撃(とリリィ達の応戦)によってでしょうか、地盤が破壊され大きなクレーターとなって水没しています。
鎌倉の駅前からの道も、小町通りは無事のようですが、若宮大路は破壊し尽くされ、以前は建物だった瓦礫の山には、草が生い茂っています。大通りをまっすぐに進んだ突き当たりには、(現実には鶴岡八幡宮がありますけれど、)百合ヶ丘女学院が建っているのですね。
見る限り、鎌倉の街に住んでいる人はいないようです。鎌倉駅の改札前には迷彩服を着た兵士のような人がいましたが、それ以外は学院の学生しか登場していません。
考えてみれば、梨璃が乗っていた電車も他に乗客はいませんでしたし、途中電車と並行して走る道路は本当なら交通量が多いはずですけれど、場面の中では車が1台(楓が乗った車です)走っているだけでした。
つまり鎌倉の街は、ヒュージとの戦いを通じて、うち捨てられてしまった、という事なのかもしれません。「鎌倉府」という独立した行政区を割り当てられてはいるようですけれど、結局それは、人間がまだ住んでいる地区からそこだけを切り離すための言い訳に過ぎないのかも。
百合ヶ丘女学院のリリィ達はそんな場所で、寮生活をし、学校に通っているのではないでしょうか。断崖に囲まれ、昔は「切り通し」ぐらいしか通路がなかった鎌倉は、ヒュージを袋小路に誘い込んで一気に叩くには好都合な地形だと言えるでしょう。その分、リリィ達にとっても、逃げ場のない決戦の場所なのです。
リリィ達が、ヒュージと戦うためだけに用意された舞台は、補修される事もなく学院の前に広がり、いつ攻めてくるかわからない相手を待ち受けるだけ。そんな荒れ果てた世界を見ながら、彼女達は精一杯生きようとしているのでは。
まだ幸運な事に、望まずにリリィにさせられてしまった女の子はいないようです。皆はそれぞれの事情から、CHARMという武器を手にヒュージという人ならざるものを打ち倒そうという意志を持ち、自分から選択してここに集まっています。
血気盛んな「16、7の小娘」(楓談)もいます。それから楓はもしかしたら、自分の親の会社が製造するCHARMの性能の高さを証明するために自分でリリィになろうとしたのかもしれません。他には、リリィでいる事でしか自分の存在価値を見つけられない子もいるのでしょう。それでも、戦い続け、人々を救うという目的を、彼女達は共有しているのではないでしょうか。
(閃光弾の代わりになる衣服や、針のような鋭利な刃物に変化するリボンなど、全身武器のような制服も彼女達の存在を際立たせている気がします。可憐な装いに秘められた力は、彼女達自身の決意を表しているようにも見えます。)
そういう彼女達の百合な関係は、、、期待できそうですね。梨璃は2年前、ヒュージに追われていた所を夢結に助けてもらってから、彼女に憧れを抱いていたようです。実際にはリリィはもう1人いたのですが、梨璃は夢結に目を奪われてしまったのですね。
自分も百合ヶ丘女学院に入ろう、と梨璃が考えたのは去年の事らしいです。その時も、ヒュージを倒して平和を取り戻すために、というよりは、会えないなら会いに行けばいい、みたいな思いつき(?)で突き進んでしまったようですね。会えたらどうするかまでは決めていなかったのかもですけれど、とにかくあの優しくてりりしい夢結と一緒に過ごしたい、というのが梨璃の願いなのでしょう。
楓は、最初は夢結とシュッツエンゲル(Schutzengel、ドイツ語で「守護天使」という意味らしいです)の契りを結びたいと願っていましたが、後半事情が変わってくるみたいです。彼女の場合、「夢結と契りを結ぶ」のは、実はステータスの一つだったのかなという気もします。百合ヶ丘女学院は中高一貫校らしいですが、楓は高等部からの編入のようで、夢結との直接の面識はなさそうです。CHARMメーカー「グランギニョル」の総帥の娘であり、学校へは常に高級リムジンで送り迎え、校内に同学年の付き人がいたりしたぐらいの素振りを見せています。そんな自分が、中等部からの猛者もいる全寮制の学院に単身乗り込んで行くなら、何か箔をつける必要がある、と考えての事だったのかも? そのためか、彼女の夢結に対する視線には、あまりラブな雰囲気は感じられません。
では彼女はこのままクールなお嬢様としてお高くとまっているのか、というとそうでもなさそうです。彼女が抱いた感情を、大きな恋心へと育てていってもらいたいかもです。
夢結はというと、何に対しても気持ちが動いていないように見えます。梨璃が2年前に感じた印象とはちょっと違っているようです。
彼女達が会わなかった間に何かがあって、夢結は気持ちを閉ざしてしまったのでしょうか。今も変わらずトップクラスのリリィとして活躍しているのに、どうしても以前のような笑顔にはなれない、、、。これはかなり複雑な事情があるように思われます。彼女の胸にかかる闇を、梨璃は取り払ってあげる事ができるでしょうか。
(後半の場面で、2人が一緒にいた部屋の中、テーブルの上に3輪の百合の花が生けてあります。2輪は元気に咲いているのですが、1輪はしおれてしまっています。これは何かを暗示している?)
事実だけで考えれば、夢結にとって梨璃は、救いの手を差し伸べたたくさんの人達の中の1人でしかないのかもしれません。でも2人のこの再会が、梨璃と夢結、どちらにとっても重要な意味を持つのでは、という気がします。夢結が過去にとらわれるのをやめ、偽りのない思いで梨璃と向き合えた時、彼女達は誰にも遠慮する事なく愛し合えるように思えます。
作中に登場するモチーフも耽美な雰囲気を感じさせています。シュッツエンゲルの契りで姉妹の関係になる、というのは百合っぽいですし、CHARMとの契約の本来の形は少女の「血」で執り行われるとか、戦いの最中にも、スカートの裾をちぎるとか(自分のじゃなく)相手のリボンをほどくなど、印象深いものがあります。
エンディング映像もなかなかですね。エンディングテーマ曲「Edel Lilie」(ドイツ語で「高貴なる百合」といった意味になるらしいです)に乗せて、梨璃達の姿が描かれていきます。梨璃と夢結は草原に寝転び、笑顔で視線を合わせています。重なる手のひらで輝くのは2つの指輪。また、郭神琳(くぉしぇんりん)が王雨嘉(わんゆーじあ)を押し倒し手のひらを重ね合うような場面もあります(ベッドの上とかでしょうか? 2人は寮で同室なんですよね)。上級生の吉村・Thi・梅(よしむら・てぃ・まい)が1年生の二水と安藤鶴紗(あんどうたずさ)を胸に抱き寄せているカットがあったりしますし、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウス(みりあむ・ひるでがるど・ふぉん・ぐろぴうす)をはじめ女の子達は、1人でいる時にアンニュイな表情を浮かべたりしています。この雰囲気で、たくさんの百合を紡いでいってもらいたい所です。
(物語の背景的には、ヒュージのサンプルにルンペルシュティルツヒェン(元はドイツ語でRumpelstilzchenというつづりになっています)という、グリム童話に出てくる小鬼の名前がつけられていたり(この名前は真島百由(まじまもゆ)が付けたものだそうです)、CHARMを起動する時にルーン文字が浮かんだり(ᛁ、ᛡ、ᛞ、ᛝ、ᚷなど様々な模様が組み合わされているようです。それと、二水が発行する「週刊リリィ新聞」には、「今月のラッキールーン」なんていうコーナーもあるみたいです(第1話の中ではᛋのような文字が書かれています))、ファンタジー系の要素がちりばめられている感じです。この仕掛けがエピソードに彩りを添えるのかもです。)
梨璃の能力にはやや王道な主人公ならでは感(?)が見受けられる気もします。けれどまあそれはそれ、ストーリー上の都合という事にして、それとは別に夢結とのふれあいを麗しく描いていってもらえると良いですね。
| 固定リンク
「百合レビュー」カテゴリの記事
- 星屑テレパス 第2話(2023.11.17)
- 16bitセンセーション ANOTHER LAYER 第1話(2023.11.15)
- 星屑テレパス 第1話(2023.11.09)
- アサルトリリィ BOUQUET 第5話(2023.10.30)
- アサルトリリィ BOUQUET 第4話(2023.10.23)
コメント