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2015年9月 8日 (火)

映画「ワンダフルワールドエンド」

 実写映画「ワンダフルワールドエンド」を見てみました。橋本愛さんと蒼波純さんのダブルヒロインで、松居大悟さんが監督されています。

 この作品は、歌手の大森靖子さんの楽曲「ミッドナイト清純異性交遊」などのイメージから制作が始まったものだそうで、楽曲のPVの撮影と同時に映画の撮影も行われたそうです(この曲については以前別の記事に書きました)。大森さんは本作の音楽も担当され、作中にも本人役で登場していますね。型にとらわれない自由な雰囲気は、本作のテイストとマッチしている気がします。最後の方の場面、お花畑で髪を振り乱しながらギターをかき鳴らしている姿がかっこいいです。

 本作は映画館で見たのですけれど、その時はかなりの人出で、立ち見も出ていたのでは、と思えるぐらいでした。館内には、撮影に使われた愛さんと純さんの衣装が展示されていたりして、作品の雰囲気が映像以外でも醸し出されていました。

 作品のストーリーは、なかなか売れずにいる17歳のモデル、詩織が、ある撮影会に参加している場面から始まります。詩織はそこで、彼女の追っかけをしている13歳の亜弓に出会います。
 少しでも目立とうとしていた詩織は、他のモデル達が柔らかな色合いのカジュアルな服装をしている中、ゴスロリファッションを決めています。会場に来ていた亜弓も、同じ系統の服装をしていました。

 詩織は、亜弓を最初に見かけた時から、彼女が気になっていたようです。自分と似た格好をしているから、とか、自分をずっと見ているから、という理由もあるのかもしれません。それとも、どうも自分のファンらしいから大事にしておけば後でいい事があるかもしれない、とでも考えたのでしょうか。
 そうではなさそうな気がします。詩織の様子を見ていると、純粋に亜弓の事が気になったように感じられます。

 年下の女の子を見ると、自分が小さかった頃とつい比べてしまったり、自分よりも格下に見ていろいろ口出ししたりする事はよくありそうにも思えます。でも何となくなのですけれど、詩織の場合は、亜弓を対等な、自分と同じ女性として見ている雰囲気があります。詩織にとって亜弓は最初から、お互いの気持ちを分け合える存在になれる、という予感があったのかも、とも思えます。

 ところで詩織には、浩平という恋人がいて同棲もしていたりします。じゃあ彼女って、女の子には何の興味もなくボーイフレンド一筋か、というと、それほどでもないようです。前半の詩織は、恋愛に関してはニュートラルな位置にいるみたいです。

 それで、この浩平という人は、けっこう真面目で性格が良いっぽいですね。自分が主宰している劇団はあまり客の入りが良くないのですが、売れるかどうかよりも、演劇の理論をひたすら追求しようとしているようです。また、亜弓が家出してきたと聞けば、無理に追い返したりせず、自分達の部屋に泊めてあげています。
 その後も、割とひどい目に遭っていたりもするのですけれど、だからといって詩織達にひどい事をしようみたいな考えは、この人は持たないみたいです。どちらかというと詩織や亜弓を温かく見守る、または応援する立場でしょうか。

 詩織は、一応モデルとして人気が出るようになりたいという気持ちは持っているようですが、本当に自分がしたい事はこれ、という強い意志までは持っていないように感じられます。ゴスロリの服を着たり、ツイキャスでファンと積極的に交流したり、いろいろとやってはいるものの、本人がノってぐいぐい前進していく、といった姿勢には見えません。その気にならないから人気が出ない、とか、人気が出ないからその気にならない、とか、見方はあるのかもですけど、このままではなかなか目立っていかない印象です。
 彼女は高校に通いながら芸能事務所に所属しています。事務所としても、所属タレントが売れてくれれば嬉しい所ではありますが、今はそうなっていない詩織に対しては、将来を期待しつつも、扱いに困っている状況らしいです。詩織の方も、事務所の社長の態度などから、自分の立場を何となく察しているみたいで、ちょっとずつ追い詰められている雰囲気になっています。

 亜弓は普通の中学生で、一緒に遊ぶ友達もいますが、だからといって何も悩みがないわけではありません。彼女は母親と2人暮らしをしていて、母親は働きながら亜弓を育てています。亜弓は、忙しい母親を困らせたくないと思っているのでしょうか、おとなしくしていようとしているようにも見えます。でも本当は、いろいろなものに興味があって、積極的に外の世界と関わっていきたいと考えているのではないでしょうか。
 その象徴とも言えるのが、詩織なのかなと思います。亜弓にとって詩織は強い憧れの対象で、彼女のようになりたい、彼女のする事なら何でも真似したい、と感じたのかもです。
  ですが母親は、生活していくだけで大変で、娘が知らない何かと関わり合っていくのを受け入れる事がとてもできなかったみたいです。母親は亜弓に当たり散らしたりはしませんが、ストレスを溜め込んで危うい雰囲気になっています。親から見放される事も、親を見放す事もできない亜弓は、だんだん追い詰められていくようです。

 今の場所で生きていく事に息苦しさを感じ始めた詩織と亜弓のとった道は、、、。最後の方の場面で、だんだんファンタジックな様子になっていくのを見て、これは、と思ったのですけれど、やはりこのパターンにならなければならないのでしょうか。

 でも、この作品の場合は、このまま2人がどこかへ行ってしまっておしまい、といった形とはちょっと別になっている気がします。一番最後の場面に出てくる写真は、彼女達が、逃げ出したりせず今いる場所に踏みとどまっている事を示しているように思えます。また、彼女達があの服装をしているのは、自分達の生き方を曲げずにいる事ができている、という意味にとれます。

 これは、百合的にも大事なように感じます。女の子同士で惹かれ合う彼女達は、今の社会から追い出される事なく、また自分達の関係を隠す事もなく生きていける。百合な関係が受け入れられている世界が描かれているのだとしたら、素敵なのでは。

(ちなみに女の子同士の愛情を描く実写映画としては、「ワンダフルワールドエンド」以外にも、「マリア様がみてる」、「思春期ごっこ」、「スクールガール・コンプレックス~放送部篇~」、「こたつと、みかんと、ニャー。」、「ちょっとかわいいアイアンメイデン」、「ジェリー・フィッシュ」(この作品は年齢に制限があります)など、最近割といろいろ制作されているらしいです。でも、女の子同士がめでたく結ばれて、今の世界で末永く暮らしました、みたいな作品ってけっこう少ない気がするのですよね。実写映画でも、女の子達が楽しくいちゃいちゃし合うみたいなものを多く見てみたい所です。)

 百合なテイストが出ている場面としては、詩織と亜弓が、部屋でスマートフォンを使ってお互いを撮り合う辺りからの流れが印象的ですね。かわいらしい亜弓を見ている内に、詩織はつい自分の思いを口に出してしまいます。そうなるともう彼女は自分を止められなくなって、相手に迫っていきます。
 亜弓は一度逃げ出してしまうのですが、決して詩織を嫌いになったわけではありません。彼女達はお互いにゆっくりと近づいていき、やがて、というように描かれていきます。

 この時のBGM(音楽というよりは効果音でしょうか)が、何だか不安や恐怖をかき立てるようなものになっているのが、ちょっと雰囲気を損なっている感じがします。女の子同士で恋愛する事が、まだ一般的に受け入れられていないために、こういう演出にしなければならなかったのでしょうか。詩織と亜弓にとっては、苦しかった日々の中でやっと落ち着ける相手を見つけられた瞬間でしょうから、もっと祝福ムードがあっても良いように思えたりします。

 そうやって結ばれた彼女達が、2人でどんな風に過ごそうとしたかが、その後の場面で少しだけ描かれています。さぞかしラブラブな生活になるのでは、と期待したのですけれど、そこまでのものではない感じですね。
 2人は手をつないで外へ出かけ、お店で買い物をしたりしています。これだと普通に仲良しな関係としか言えないような? もうちょっと何か見てみたかったかもです。

 後は、2人がお花畑で向かい合ってお互いの名前を呼ぶ場面があります。この時に口に出す名前は、役の名前ではなく役者の名前になっていますけれど、組み合わせると「純愛」になります。女の子同士のピュアなラブが、詩織と亜弓の間にも続いていくと良いですね。

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