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2012年4月11日 (水)

くちびる ためいき さくらいろ 続第5話「わたしたちの物語」

 奈々との恋愛に踏み込んだ時、瞳は相当な覚悟を
したのでしょう。明るい将来設計と同じぐらい、
暗い未来も予想できたはず。奈々にだけは苦労を
かけさせないという決心も働いていたとは思います
が、それは瞳から見た場合の事。奈々だって、同じ
女の子として言いたい事はあるのですよね。ところで、
作品としてはもっと続いてもらいたいですね、、、。

 発行双葉社コミックハイ!連載が再開された、
森永みるくさん作「くちびる ためいき さくらいろ」の
続編第5話「わたしたちの物語」です。
(なお、この作品はこれまでコミック百合姫などで
連載されていました。そちらの話数と区別するため、
ここでは「続編第1話」などのような表現としています。)
 家出先の夜の町で、酔った男性のグループに追いかけ
られた瞳と奈々。瞳は奈々を物陰に潜ませ、自分が
おとりになって奈々を助けようとする。しかし、
離れようとする瞳の手を奈々が引いた。瞳が自分を
「守る」ために危険を冒そうとしていると知り、その
無謀な行為をやめさせようとしたのだ。瞳は、自分の
せいで奈々をつらい目に遭わせていると考えていた
が、奈々にはそんなつもりはない。瞳の勝手とも言える
意見を受け入れられない奈々は、つい叫んでしまった。

 前回第4話の最後の方でも奈々は違和感を覚えて
いたようですけれど、ここでははっきり、瞳との
意見の違いを意識したみたいです。瞳がしようと
考えていた事は、奈々にとっては一つも嬉しくない
もののようです。
 瞳は、奈々がひどい目に遭わされるのではないかと
心配して、奈々の身の安全を一番に考えていました。
でも、それは奈々にとっても同じなのですね。奈々
だって、瞳が苦しんだりしていないか心配で、自分
よりも瞳の無事を願っています。

 だから、瞳から「奈々を守る」なんていう言葉を
聞くと、黙ってはいられなかったのでしょう。自分は
瞳との関係をそんな風には捉えていない、と言いたく
なってしまうのでは。
 瞳は頭の回転も速いですし体力もありますから、
ちょっとした困難もうまくやりおおせる事はできるの
でしょう。けれど瞳の苦労で作られた安全の上で
自分だけが楽をするのはおかしい、と奈々は感じたの
かもですね。何があっても自分の恋人だけは救いたい
という奈々の気持ちは、瞳に負けないぐらい強い
でしょうから。

(「守る」という言葉については、以前このブログの
別の記事でも少し書きました。守ると言っている側は
使命感に燃えているのでしょうけれど、その言葉で
守られる側に回された人は、自分の意見も言えず
黙って待っていなければない状況に追い込まれそう
でもあります。それって結局力のある者が弱い者を
抑え込む構図になってしまいそうな気もしたりします。)

 とりわけ、奈々と瞳は女の子同士の恋人です。同じ
女の子として、対等な立場で物事を決めていったり、
愛し合ったりしたいという思いを、本当は抱いているの
ではないでしょうか。

 瞳が、「奈々を守る」なんて考えるようになったの
には理由があるようですね。彼女は、自分のせいで
奈々を女の子同士の恋愛に引き込んでしまったという
負い目のようなものがあったみたいです。
 まあでもそれも、奈々が聞いたら怒り出す考えかも
しれませんね。今、瞳と恋愛関係になっているのは
他の誰でもない瞳と自分の意志なのだから、瞳が
負い目を感じるなんて心外だ、とか。もうそれぐらい、
2人はれっきとした恋人同士なのでは、という気が
します。
(ところでこういう瞳の言葉を聞いていると、彼女が
どんな風に奈々に惹かれていったのかが気になります。
本作では第1話「ともだちじゃなくても。」で奈々が瞳への
思いを募らせる流れが描かれていましたけれど、瞳に
ついてはそういうのはなかったような。中学(または
それよりもっと前)の頃から奈々に恋愛感情を抱く
ようになったいきさつみたいなものも見てみたいように
思います。)

 このように、奈々と瞳は、まだちょっとした事でも
思いの食い違い誤解をしてしまっているようです。
2人がお互いを知り尽くすには時間がかかりそうです。
けれど、彼女達はお互いを知っていく事を決してやめたり
しないでしょう。なぜなら、彼女達はいつでも
お互いを見つめているし、愛し合っているから、、、。
これから山ほどあるかもしれない苦難も、この
2人なら力を合わせて乗り越えていけるでしょう。

 この話数の後半では、家出(新婚旅行?)の後日談
が描かれています。展開としては彼女達にかなり
都合がいいように進んでしまいましたけれど、今まで
ないしょの恋人」を続けてきた彼女達へのごほうび
とも言えそうですね(瞳は「貯金」を使い果たしたと
言ってますが)。
 それに作品的にも、あの話数で物語をまとめるには
こういう形が一番のような気がします。彼女達の
これからに希望を持てる雰囲気ですね。

 少し考える必要がありそうなのは、周りの人達
との関係かもしれません。最後の方の場面で、奈々と
瞳を心配していない手いる人達が描かれていました。
この中で、奈々と瞳が恋仲だと知っているのは、
千絵だけなのですよね。加賀見はそこまで気づいて
いないっぽですし、なるみもまだ、奈々にはボーイ
フレンドがいると誤解したままのはず。橘もなるみ
から同じように聞かされていると思われます。さらに
奈々と瞳それぞれの両親も知らされていないでしょう。
この人達すべてに自分達の関係を正しく理解してもらう
には相当な苦労が必要かもしれません。
 でも希望はあるように思います。千絵やなるみは、
家出してしまった瞳や奈々をとても心配し、泣いて
くれてもいます。これだけ思ってくれる友達なら、
2人が本気で選んだ道を祝福してくれるのでは、と
感じられます。

 そんなわけで、この物語も一つの区切りになって
いるようです(「短期集中連載」とされていただけに、
以前別の記事に書いたように5話でまとめられて
いる?)。第1話が「百合姉妹」に掲載されたのは
2003年だそうですから、10年近く前になるの
ですね。連載が止まったり掲載誌が変わったり
いろいろありましたけれど、奈々と瞳の笑顔が
見られたのは良かった気がします。
 とはいっても気になる所もまだまだありますね。
2人の残りの高校生活やその後の進路も知りたい
ですし、何より他のカップル達がどうしているのか
も興味のある所です。第2話「キスと恋と王子様。
が主役回だったなるみと橘については少し描かれて
いますけれど、第5話「ホントのキモチ。」の
野坂とみちるや、第6話「くちびるにチェリー」の
ちはると絵里とかもその後どうしているのでしょう
、、、っていうかどの話数の2人も気になります。
それに、加賀見のような女の子達にも、女の子同士の
恋心が訪れたりすると素敵なストーリーになるのでは。

 桜女や東峰の学校の雰囲気も良いですよね。特に
桜女は厳かさがあって、百合な作品にはお似合いの
シチュエーションのような気がします。(コミック
ハイ! での連載ではそこまでの感覚は描かれて
いなかったかもしれません。)
 とまあそういう事で、続編、もしくは桜女や東峰を
舞台にしたロマンティックな、甘い、王道な百合作品を
見てみたいです。どこかで連載してもらえたら良い
ですね。

・「くちびる ためいき さくらいろ」レビューリストレビューセンター

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