くちびる ためいき さくらいろ 第9話「月に願いを」
一度は自分の思いを拒まれた瞳。その時の悲しみは
とても深いものだったようです。晴れて奈々と気持ちを
通じ合わせる事ができるようになった今でさえ、その経験が
彼女を苦しめる時もあるみたいです。それほどまでにつらい
思いをしなければならないのは、この恋が女の子同士の
ものだから、、、。でも瞳は前へ進もうとします、それに
奈々も、同じ気持ちでいるようです。
コミック「くちびる ためいき さくらいろ」(森永みるくさん作)
第9話「月に願いを」です。
(なお、この作品はコミック百合姫に掲載されたのみで
コミックスには収録されていません。ここでは便宜的に
「くちびる ためいき さくらいろ」というタイトルと
「第9話」という話数を割り当てています。)
奈々と瞳は2年生になった。瞳が東峰のバスケ部で
部活を終えた後、2人は時々待ち合わせをして月夜の
デートをしている。今夜は公園のベンチに座って部活の
話題で話していたが、いつの間にか奈々の手に瞳の
手が重なりなで回す。外でキスするのを控えるように
奈々に言われていたからこれで我慢するつもりだったが、
頬を染めてうつむいている奈々の表情を見ている間に、
瞳はたまらなくなって、つい唇を重ねてしまうのだった。
もうこの最初の場面は、奈々と瞳のラブラブが
あふれてますね。少しでも長くそばにいたい、そばに
いられたら少しでも多くふれあっていたい、キスしたい、
という思いが伝わってきます。またそう考えているのが、
どちらか片方だけではなく、奈々と瞳どちらもなの
ですよね。
その中で積極的な行動に出ちゃうのは、どちらか
というと瞳の方なのでしょう。瞳は中学の頃から奈々に
べたべたしてましたし、思いが通じ合ってからはそれが
さらに加速して、ちょっとコミカルにさえなっている
感じが。「奈々部」っていったい、、、。
瞳の愛情の強さは、「チョコレート キスキス」でも
描かれていましたね。街の中、茂みの陰ではありました
けど人前でキスしてしまう辺りは、奈々への愛が抑え
られなくなった一場面なのでしょう。
このまま欲望に従って、いつでも誰が見ていても
奈々とキスしたり恥知らずな事をするのも、一つの選択
かもしれません。そのせいで2人が周りから白い目で
見られても、自分達が良ければそれでかまわない、と
開き直る生き方もあるのでしょう。
でも瞳は、そうはしていません。彼女は、この先も2人で
ずっと笑顔でいるためにはどうしたらいいかを、普段から
考えているようです。瞳は頭のいい女の子なので、自分が
奈々に熱を上げていても、どこか冷静な部分が控えていて、
自分達を取り巻く世界との折り合いを気にしてしまうの
では。
それに、自分の事をどうしても一歩引いた目で見て
しまうような経験を、彼女はしてきたと思われます。
それは中学の時、必死に告白した奈々への思いを、
「友達とのスキンシップ」にすり替えられてしまった事。
あの時は奈々の方もどうしたらいいのかわからずちゃんと
考えてあげられなかったわけですが、当時の瞳には
そこまで先回りして思いやる事なんてできなかったの
ではないかと思います。告白から後の瞳と奈々の生活が
どんなだったかは描かれていないためわかりませんが、
その日々は、瞳にとっては現実を思い知らされる重々しい
時間だったのかなと言う気がします。日頃から何かと
ふれあって、少しずつシグナルを送っているつもりだった
けれど、やっぱり女の子同士で恋人になるなんて、
あり得ない事なんだ、と。それでも瞳は中学には通い、
奈々とも「ともだち」ではあり続けたらしいですから、
彼女の胸の中の絶望感は強いものだったのでしょう。
それだけに、今は奈々と結ばれて本当に良かった
ですね。彼女は奈々の事をとても大切に思っていて、
奈々も言葉には表せないぐらい瞳への大きな愛情を
抱いているようです。
作中で、瞳は「早く大人になりたい」と言っています。
誰かの世話になるのではなく、ちゃんと自立した上で、
奈々とともに生きていきたい、という気持ちが言葉に
なっているのでしょう。
この言葉でちょっと思い出したのは、「くちびるに
チェリー」で、ちはるが言っていたせりふだったり
します。彼女には、思いを伝えられずにいる親友の
絵里がいます。ある日校内のベンチに座って話していた
時、絵里が隣でうたた寝してしまいます。ちはるは
彼女の手に触れながら、「このまま世界が終わっちゃえば
いいのに」と言います。
ちはるの場合は、この先自分の思いを伝えられないなら
いっそ今のままの方がいい、と思っていたのでしょうね。
この言葉は瞳とは対照的な感じがしました。(でも
ちはるには、絵里と思いを通わせてもらいたいものです。
あのストーリーのその後とか見てみたいですね。)
奈々より先に大人になっているような所のある瞳
ですが、彼女だって悩んだり心細くなったりする事も
まだまだあります。奈々には、そんな瞳を包み込んで
お互いに支え合えるようになっていってもらいたい
ですね。
本作はこれから連載が再開しますので、どのような
物語が見られるのか楽しみです。東峰からは新キャラの
加賀見が登場してそれきり連載が止まっていましたから、
彼女が何か動きを見せたりするでしょうか。また、実は
第1話の「ともだちじゃなくても。」から登場していて、
奈々と瞳の偶然の再会も目撃していた東峰のバスケ部の
同級生も、何か関わってきそうではあります。彼女は
、、、名前が出てきてないんですよね。これはその内
わかるのでしょう。
といった感じで、奈々と瞳は、結ばれたからといって
これからずっとラブラブひとすじ、というわけでもなさそう
です。彼女達には女の子同士の恋を実らせていって
もらいたいです。それと、これまでのエピソードのように、
他の女の子達の物語も見てみたいです。
(ところで個人的な事なんですが、この「月に願いを」の
エピソードは、実はここで初めて読みました。掲載本誌
自体は5年前に発行されていたのですが、その後本作の
連載がストップしていたため、もったいなくて読めずに
いたのでした、、、。でも連載が再開すると聞いて読んで
みたというわけです。それにしても、5年も前に制作
された作品とは思えないぐらい、今読んでも感動的です。
これからの連載も楽しみです。)
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