アニメ「もしドラ」 後半
野球部をマネジメントして甲子園に連れて行く
、、、何のために? 野球を通じて大きな感動を与える
、、、誰のために? みなみは、最初に目標を立てた
時から、何かを間違っていたのでしょうか。その
答えを知るために、彼女がいなければならない場所は
一つなのでしょう。そしてそこには、みなみと夕紀が
夢見たものがあるのではないでしょうか。
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの
『マネジメント』を読んだら」(略称「もしドラ」)の
テレビアニメ版、一挙放送分の後半を見てみました。
第6話から第10話で、サブタイトルはそれぞれ次の
ようになっています。
(なお、一挙放送の他に、週1回のレギュラー放送
が4/29から行われています。また、Webコミックサイト
「クラブサンデー」では、この作品のアニメコミックを
順次配信しています。)
・第6話「みなみは戦略と現状について考えた」
・第7話「みなみは成果について考えた」
・第8話「みなみはマネジメントのあるべき姿を考えた」
・第9話「みなみは大切なものをなくした」
・第10話「みなみは高校野球に感動した」
前半については別の記事に書きました。
後半のストーリーは、、、みなみがマネージャーに
なってから、程高野球部は大学生との練習試合を
行った。結果、敗れはしたものの、部員達は各自が
実力をつけているとの手応えを感じていた。学校の
グラウンドでの練習にも身が入るようになり、
1人1人の顔にも笑みが浮かんでいる。マネジメント
の効果を改めて実感するみなみの所に新たな知らせが
入った。野球部への入部希望者が大幅に増え、32名
が押し寄せているという。
みなみのマネジメントが成功してイノベーションが
起こっていくと、新しい課題が現れる事もあります。
入部希望者が増えるのもその一つでした。
部員が増えると練習場所が少なくなる。それに
3年間ずっと補欠でベンチには入れない選手も出てくる
可能性がある。野球を通じて皆に感動を与える事を
程高野球部の定義づけにしたみなみとしては、甲子園に
出るという目標も大事ではありますが、そのために
つまらない思いをする人が多く出てしまうのは
良くないと考えたようです。
そこで彼女は、「マネジメント」を読み進め、
次々と手を打っていきます。これには野球部員達
だけでなく他の生徒達の協力もあって、だんだん
改善されていくようです。
この作品では、「マネジメント」の考え方をうまく
活用すれば、女子高生が弱小野球部を甲子園に連れて
行けるかもしれない、という物語が描かれています。
なので、この本で説明されている事がいつも正しく、
それに従っていれば間違いはない、といった言い方に
どうしてもなっていってしまうのかな、と最初は
感じられました。マネジメントという何だかお堅い
ものよりも、最後は根性や愛が勝つんだ、とは
言えなくなってしまうような。
でもそれは余計な心配だったようですね。ストーリー
中では、登場人物それぞれの気持ちが取り上げられて
いて、そこにある1人1人のドラマが描き出されて
いる感じです。
前半でも、ピッチャーの浅野と加地監督の関係、
補欠だった二階の決断などが描かれていました。
後半ではさらに、星出、朽木、祐之助、田村など、
野球部のメンバー達が自分なりに抱えている悩みを
野球にぶつけていく姿が見られます。
みなみがマネージャーになり、皆で変えていった
野球部。その場所を通じて、部員達自身も成長している
と言えそうです。
、、、じゃあ後半は野球を実際にプレイしている
男子達が主役に? なんて流れもありそうでした
けれど、そうではなかったようです。やはりこの
物語は、みなみと、そして夕紀が中心になっているの
ですね。(そうならなければならない状況になって
しまっているわけではありますけれど、、、。)
第6話で、新学期になり入部希望者がたくさん
やって来て今までとは状況が変わってきた時、みなみ
は野球部の「最適化」に取り組もうとします。試合に
向けた練習もハードになるため、今まで続けていた、
夕紀へのお見舞いを兼ねた部員達との面談も少し
ペースを落とそうとみなみは考えます。
それを聞いた夕紀の反応は、ちょっと寂しげな
感じでした。皆に会える機会が減るのが
寂しかったのでしょうか、それとも他に何かが、、、。
といった所まではみなみは気づかなかったようです。
そして第7話では、野球部の運営の仕方について、
2人の間で意見が対立してしまいます。みなみが
言っているのは、「マネジメント」にのっとった
考え方。今までずっとそうしてきましたし、夕紀も
自分に賛成してくれているとみなみは確信していた
事でしょう。
その夕紀の口から違う意見が出てきたのは、
みなみにはちょっとショックだったのかもです。
でもなぜそんな事を言い出したのかまではわかって
いないみたいです。
みなみが夕紀の態度の意味を知ったのは、ずっと
後になってからでした。第9話が大きな転換部分に
なるわけですけれど、この話数のサブタイトルも
他とは雰囲気が違っていますね。
第1話からはずっと、マネジメントやその結果
みなみ達が手にしたものがサブタイトルに示されて
いました。第9話だけそうなっていないのは、
それだけ重要な事が、特にみなみと夕紀との間で
起きた、と言えるのでしょう。
みなみは、夕紀の事で激しく後悔します。2年生の
夏から始まった1年間、自分がしてきた事は、結局
夕紀を苦しめていただけなのではないか、と。
そしてその時、彼女は改めて気づかされたのでは、
と思われます。みなみ自身も言っているように、
彼女は夕紀のためにマネジメントを始めたのだという
事に。
野球部ではなく夕紀を甲子園に連れて行く、皆に
ではなく夕紀に感動を与える、、、。マネジメントに
向けた定義も目標も、すべては夕紀のためだったの
ではないでしょうか。
自分のしてきた事が意味をなさない、それどころか
かえって相手に苦しみを与えていたと感じたみなみ
は、もう何も考えられなくなってしまったのかも
ですね。絵としてもそれが表されていました。
これまでマネジメントについてみなみが考える時に
ずっと見えていたビジョン、入り組んだ回廊と
その先にほのかに見える光のイメージも、ここでは
色あせたものになっています。涙のようなしずくに
にじんで溶け落ちて、消えていきます。
残ったのは、行き場のない気持ちだけ。夕紀を
喜ばせられないのなら、今更何をしても無駄だと
思ったのか、みなみは自分自身の野球に対して抱いて
いる本当の気持ちをさらけ出しています。
こうなっては、もうどうしようもないのでしょう。
みなみは、自分がしてきた事すべてを否定し、そこから
逃げ出そうとしたようです。
そこに立ちはだかったのは、文乃でした。文乃は
先輩のみなみに必死に訴えかけています。
以前の彼女は人とふれあうのを避けていて、みなみ
が話しかけてもすぐに逃げ出していました。それが
今は、逃げるみなみを止めようとしています。
文乃って、夕紀に憧れて、夕紀のようになりたくて
野球部のマネージャーになったんですよね。この時
ここで文乃がした事は、自分がなりたかった人の姿に
近いものだったのではないでしょうか。
文乃が、夕紀の代わりにまでなるのかどうかは
わかりません。マネージャーの仕事をこなして皆を
まとめ上げ、みなみをサポートできるようになった
としても、夕紀本人になれるわけではないのでしょう。
文乃がどういう人間になりたいと考えているのか
なども知りたい所なのですけれど、ここではあまり
詳しくは言われていないみたいです。
夕紀の事をとても慕っていた文乃。彼女だって、
みなみには及ばないかもしれませんけれど、夕紀
への愛情は深いはずですよね。夕紀とみなみとの
関係がクローズアップされているために描き方は
少ないかもですけれど、文乃にも、いろいろな
気持ちはあるのでしょう。その思いは、彼女を
確実に成長させているのでは、という気がします。
エンディング曲について、少し気になっていた
事がありました。この曲は誰の気持ちを表したもの
なのかという点です。
サビの部分、1番の歌詞では「また逢えるから」、
2番では「ずっとそばにいるから」とされています
(CDを入手していたので2番の歌詞もチェック
できました)。これに当てはまるような登場人物
って、見当たらないような気がしていて。でも
第10話まで見ると、何となく雰囲気が伝わって
くるように思えます。
第10話では、エンディング曲と一緒に流れる
映像が第9話までとは別になっています。そこに
描かれているのは、みなみと夕紀の成長の記録、、、。
彼女達は、本当に生まれた時からずっと一緒にいた
ようですね。
数々の思い出の中で、2人は穏やかな笑顔を見せて
います。みなみも夕紀も、お互いに相手といる事が
自然で、またとても嬉しかったのでしょうね。
小学校の学芸会での王子様とお姫様役、クリスマス、
縁日、病室のベッドで頬を寄せ合って撮った写真、
どれもかけがえのない思い出なのでしょう。
マネージャーになって2度目の夏、みなみは
少しイメージチェンジしています。ポニーテールを
下ろして髪を伸ばし、頭には麦わら帽子、、、。
この姿が、彼女の胸の中にある気持ちと意志を
表しているのでは、という気がします。
、、、といった感じで、この作品は、ビジネス書を
手にした女子高生が、高校生のスポーツに新しい
視点を持ち込んで、野球部を甲子園へ連れて行こうと
する物語ではあります。確かに、野球や高校生の
部活、それに組織論やマネジメントが関わってくる、
という構図がずっと描かれています。
けれど、物語としての主題は、みなみと夕紀、
2人の女子高生の絆だと言えるのではないでしょうか。
さらにエンディング曲のタイトルが「大好きだよ」
である事が、彼女達の関係性を示しているように
感じられます。このアニメ版については、百合作品
としても楽しめそうですね。
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