うみものがたり 第13話
会いたい、けど会えない、、、夏音の胸の中には
そんな気持ちが宿っているようです。今の彼女の
状態は、海と空の掟に従っている、というのとは
ちょっと違うような気がします。もしここで相手と
会ってしまったら、今まで目をそらし、なかった事
にしてきた自分の本当の思いを止められなくなって
しまうから、なのではないでしょうか。
アニメ「うみものがたり~あなたがいてくれたコト~」
は、12話までがテレビ放送されました。その後
リリースされたDVDの第6巻には、テレビ未放送の
第13話が収録されています。このエピソードを
見てみました。タイトルは「信じあう心」です。
あれから1年が過ぎ、天神子島(あまみこしま)に
また夏がやってきた。波止場に着いた旅客船から
降りてきた1人の少女は、変わらない島の景色に
懐かしさを感じ、ここにいた頃を思い出す。彼女は
夏音(かのん)。今は大学の海洋学部で学業に
励んでいた。
物語の中でも1年が過ぎ、アニメとしても
半年ぶりぐらいに見たので、少し懐かしい気持ちで
島の風景などを見ていました。マリンや夏音も
成長して少し見た目が変わったのかな、、、とも
思ったのですけど、何だか絵柄(特に前半の)が
、、、な感じですね。未放送エピソードだとこういう
仕上がりになってしまったりするのでしょうか、、、。
それはともかく、第12話の結び方では、何となく
夏音が物語の主人公で、彼女が、日食のあった年に
経験した一夏の出来事がこの作品だった、という
雰囲気でした。そう感じられたのは、マリン達
海人(うみびと)が海の世界へ帰って行ってしまい、
もう2度と夏音と会う事はないかもしれない、
と思わせるような流れになっていたためでした。
なので、セドナの事件の後、マリン達がどんな
風に暮らしているかは、テレビ放送では描かれて
いませんでした。けれどその辺りが一番気になる
部分でもあったのですよね。
苦しい経験を通じて、マリンは自分の妹、ウリン
への愛を自覚しました。ウリンも、姉が自分を
見捨ててなどいなかった事、それどころか言葉
だけでなく本当に自分を愛してくれていた事に
気づきます。
彼女達の仲については、反対する人は周りには
いないはず。それならもう何の気兼ねもなく、今まで
以上にラブラブできるんじゃないかな、という
感じがしていました。彼女達が描かれるなら、
人もうらやむような親密さが見られるかも、
みたいな。
けれどこの第13話ではそれほどでもない感じ
でしたね。2人はだいたいいつも一緒にいて
仲良くしているのですけど、それは第1話の頃と
同じぐらいの距離感のようです。
思い出してみれば第12話でも、マリン達が
海に帰る時のマリンとウリンの雰囲気も、何か
元通りになったぐらいの感覚だったかもです、、、。
やはりこの2人にとっては、この状況が一番の
親しさを表している、という事だったのでしょうか。
(途中の場面で、マリンにウリンが寄り添った
時に、何か唇を寄せるような描かれ方が
ありました。実はけっこうウリンはマリンに
近づこうとしているのかも、と思える瞬間
でした。
そういえば、ウリンがお姉さんに? という
エピソードもありました。マリンから「お姉さん
みたいだね」と言われた時、ウリンはとても
嬉しそうな顔をしていました。彼女の中では、
「姉」という存在はとても暖かくて好ましいもの
なんだとわかる場面だったかもです。)
では夏音の方はどうでしょう。学校の友達は、
それぞれ進学したり就職したりでばらばらになって
いるようです。でもひとたび島に集まれば、
仲良しでもそうでなくても、すぐに昔の空気が
皆の間に生まれて、時間なんて過ぎていない
ような感じです。
けれど海を見る時の夏音は、時々ふと寂しげな
表情を浮かべます。他の友達は誰も知らない、
1年前の「海の物語」を、彼女は思い出している
ようです。
一緒にセドナと戦い、時にはお互いにぶつかり
合ったり励まし合ったりした女の子。彼女は今も
海の中の世界で生きているはず。
でも、彼女にはもう会えない、、、。そんな思いが、
彼女を切なくさせているのでしょう。
海の世界と空の世界(=地上の世界)には掟が
ある。海人と空人(そらびと)は本来交わっては
いけない存在。夏音はその掟に従うように、マリン
とは再会しないようにしているみたいです。
、、、けど、何というかその掟もちょっと怪しい
感じがしますね。ストーリー的では第12話で
突然暴露されたような状態でしたし、それに
第1話からマリンと夏音はさんざんふれあって
きていました。また、海人と空人が交流しては
いけないのであれば、セドナが復活しても
「海の巫女」と「空の巫女」が力を合わせる事
だってできなくなっちゃいますよね。
夏音もその辺りはわかっているはず、という
気がします。なのに彼女は、すぐ目の前にいるかも
しれないマリンに向かって、呼びかける事も、
手を差し伸べる事もしていません。
これは何を意味しているのでしょう。会いたい
と思えばいつでも会いにいけるらしいのに、
そうはしない、、、。もしかしたら夏音は、マリンに
会ったら自分の本当の気持ちが表に出てきて
しまうかもしれない、とおそれているのでは
ないでしょうか。
マリンの背中を見送る彼女が、涙を流しながら
言った「愛してる」の言葉。あの言葉が、彼女の
胸を今でも支配しているのでは、という気がします。
もしここでマリンに会ってしまったら、その言葉が
どんな風に形を変えるのか、夏音には怖かったの
かも。
怖い、と思うのは、この「愛」が男女の間の
恋愛ではないから、とも考えられそうです。
夏音が、これまで自分の周りで見てきたり、自分
自身でも経験したような、いわゆる男女の恋愛とは
明らかに違う、女性同士の愛。マリンとの再会が、
そんな感情を自分の中に呼び起こしてしまうの
ではないかと想像して(いえ、もしかしたら半ば
確信して)、夏音は不安になってしまったのでは
ないか、と思ってしまいます。
この作品のDVDには、この作品の小説版を掲載
した小冊子が毎巻付いてきます。DVD第6巻に
付属の冊子では、夏音と鈴木が浜辺を歩きながら
語り合う場面が収録されています。
日食とセドナの出来事を、夢としてしか捉えて
いない鈴木に向けて、夏音は自分の思いを少しずつ
語っていきます。マリンの事も、鈴木ははっきりとは
憶えていません。
けれど夏音が、遠く離れてしまった彼女の事を
話すのを聞いて、鈴木は言います。2人はまるで
恋人同士みたいだ、と。
小説版ではそこから百合な展開になったりは
しません。けれど、この時の夏音は、自分の意識を
はっきりと自覚したのでは、という気がします。
頭の中を整理するつもりで、独り言のように
つぶやいた言葉は、他の人からすれば、恋人を
求める気持ちのように聞こえる。だとしたら、
自分にとってマリンはどういう存在なのか、夏音は
気づかないわけにはいかないのでは。
その後何とかして彼女達が再会し、お互いの
恋愛感情を確かめる、みたいな場面が描かれたり
すると良いのですけれど、ここではそうはなって
いないみたいですね、、、。でもいつか彼女達が
自主的に再会できるようになる未来があるのを
期待したいかもです。
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